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執筆者の写真Naoki.

奇跡。

更新日:2022年9月10日

『実は

死に場所を探して此処に来たんです』


君は

衝撃的な言葉を吐いた。

それでいてリアリティのない

それほどに聞く機会のほとんどない言葉を。


だけど

俺はその時

前に君が

『生き死にについて小さい頃から沢山考えていたんです』

と言っていたことを思い出して

君の言葉への理解が深まった。



少し間があいた。



すると君は

『でも今は

もう少し楽しく生きてみたいと思うようになりました』

と続けた。


それで俺は

目の前に広がる海を見ながら

念のために伝えたんだ。


『俺から一つ提案をしておきたいと思うよ

死ぬのはいつ死んでも遅くない

生きるだけ生きてみてからでもいいわけだ

だから

これから沢山

俺と色んな所に行って

色んなものを見たりしよう』


君が可愛らしく笑って


俺らは


雲とじゃれ合う半円の月を見上げ


そしてまた顔を見合わせた。




命という自由を与えられながらも

自由を奪われて生きてきた君の

毎日泣いていたと言うその苦しみは

俺には計り知れないのかもしれないけど

でも少し

解る気もするんだ。


最初の理由が何であれ

此処は君の新天地となったはずで

そして俺と出会い

君は『運命』だと言った。




君が長いことはめていたのだろう指輪を

自分の指から外して

俺の指にはめた。


『友情の印です

私が作ったものです』


驚いた。

おそらく

ほんの少し戸惑いもしたかもしれない。

だけど

素直に受けたい気持ちだった。


「友情の印」は

俺のどの指にもキレイにはハマらなくて

左手の薬指に

サイズぴったりにハマった。

不思議な感覚を覚えた。


俺は今まで指輪というものをした記憶がない。


だからこれは

俺の初めての指輪になったんだ。




出会いは突然にやってくる。

分かってはいたけど

まさかこんな出会い方があるとは

思ってもいなかった。




君と過ごす時間の中では

俺が今までに感じたことのない感情が

幾つも生まれる。


そして

知るほどに二人の重なる部分を見つけては

とてつもないことが起こっているように感じてしまう。




君とのこの時間の先で

俺らは

笑えているんだろうか。


それとも

張り裂けそうに泣く日がきてしまうんだろうか。




『とてもいいお友達ができました』

無邪気に笑う君の隣で

締め付けられる思いが走る。


君は

どんな思いなんだろう。




君との出会いは

まさに

奇跡だと思う。


だからこそ

運命だとも感じる。



君には

君の望む自由を

どうか

手に入れてほしいと願う。


そして

その自由を手に入れる過程で

また

自由を手に入れた先でも

きっと

顔を見合わせて笑っていられたらと


心から


切実に


切実に願わずにはいられない。




Naoki.





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