• Naoki.

白のような灰色の猫。

新しい風を浴びだした直後

猫の鳴き声がした。


その猫は

森の入り口で出会った猫で

僕の出会った中で唯一

地を駆ける命だった。


出会った頃は

ずいぶんヘンテコな猫だなと思った。


まるでリアル感のない

どこか浮いていて

行動の全てがチグハグだったからだ。


だけど

猫は

僕のにおいを好んで

すり寄ってきた。


それがどうにも面倒で

「あっちに行け」とサインしてみたり

僕の方が猫の前からいなくなったりした。


すると

次会うときは

決まってボロボロで


例えるなら

まるで水を失った大地のように


カラカラで

砂嵐が吹き荒れて

そこらじゅうがめちゃくちゃで

目も当てられないような光景


まさにそんな状態になっているんだ。



だけど猫は

一人でじっと耐えているのか

それとも

自分がそんな状態であることに気付かないのか

ずいぶん痩せて

それでも他に居場所を探そうとせず

まるで忠犬のように

僕を探して

僕を待ち続けていた。







僕が森と草原の境界線に立って

森に背を向けて歩み始めた時

どこからともなく

猫は鳴いた。


見まわしたら

ひょっこり姿を見せて

ついてきたそうにしたけど

僕は

ついてくるなとも

ついてこいとも言わずに―――


そしたら

ついてきたんだけど


ただ

口に葉っぱを加えていて

それは森にいた頃に僕が好んでいたものだったから


『それはいらないよ』

と言ったんだ。


すると猫はそれを吐き捨てて

ほんの少し離れた距離を保ったまま

当然のように歩き出したので

僕はその気配を感じながら進んだ。





果てしなく続いていそうな草原

刻一刻と変わりゆく空の色の下を歩きながら

森の中で猫と過ごした時間を思い出している。


言葉が通じないからと嫌がった僕だった。

同じものを食べられないからと嫌がって

習慣が違うからと嫌がっては猫を遠ざけた。


でも

それでも

猫は

僕の好むモノを探しては持ってきた

その姿がときに

どろんこまみれだったことを思い出す。





ある日

僕が猫を愛してしまって

安心というものを覚えた猫は

眠りについてなかなか起きてこなかった。


どうしても僕は先に進まなければならなくて

置いて出たんだ。


あとからなんとかついてきた猫に

僕は

『安心はいつだってなくなってしまえるものなんだよ』

と言ったんだっけ。





そう思い出していたら

背中で猫がまた鳴いた。


振り返ると

僕に花を見せた。


その花の見せ方に呆れた僕は

『相変わらずのセンスだな』と言って笑った。


でも猫は

喜んで

ずいぶん幸せそうに跳ねる。



だから僕は続けたんだ。


『なあ

この先

どうなるか分からないよ?

出会えば必ず終わりが来る。

喜びが大きく

時間が濃く

ドラマが深い分だけ

終わりはきっと

とてつもなく悲しく苦しい。

それでも

君は

それでも

それでも喜びを願えるほど強くなれる?』




猫は

僕を真っ直ぐに見つめて

頷いた。


そして猫は


いや



彼女は


真剣な顔で口を開いた。



『それでも

貴方を失う以上の悲しみはありませんので


足らないのは分かっているんです

それでも

貴方によって満ちたい』





僕は

その声に

言葉にならない思いを覚えて

また前を向いて歩き出した。



『食事でもしようか』



『はい』



『俺も足らないのは同じだよ』













Naoki.